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(前)ブラジルの未来を切り開く日系人経営者 越山 末巳

ここノルデスチの地で、天職に生きる大和魂と日本精神を持ったサムライ経営者・越山が、1982年にバイア州に再移住した30歳の時の言葉がある。「小さい頃から父が家族のために毎日働いているのを見てきた。父の背中を見て農業者として仕事の誇りを見てきた。私はこの誇りをバックボーンに自分の使命と責任を果たすべく生きている。父以上の良き仕事をしていくことが私の使命だ」。そしていま語る、「父の移住の時よりはるかに楽だった。私にとってそこに進むべき1本道があった。何の迷いもなく自分の夢実現に一直線に向かっていけばいいという心構えで再移住した」。サンパウロの郊外都市・モジ・ダス・クルーゼスから移転して以来36年になる。志に生きる越山はサンフランシスコ川中流域のブドウ栽培経営者としてこの地域で頂点に立っている。

今回取材した越山はブラジル在住長崎県出身者を代表するような、先見性に優れ器量と胆力がある、いわば格の違いを実感させてくれる事業家だ。常に事業の変革と改革に挑戦し続けて、数年先を見通した事業投資が輝きを増している。同県五島列島出身の越山が5歳の時に家族でモジ・ダス・クルーゼスに移住したのが59年。来年は移住60周年の節目の年を迎える。モジで30歳を迎えたのを転機に新天地で果樹栽培ができるというコチア産業組合の勧めで、82年にノルデスチ(ブラジル北東部)・サンフランシスコ川中流域のペトロリーナ市(ペルナンブコ州)やジョアゼイロ市(バイア州)があるバイア州側に再移住した。この地は海岸都市のレシーフェから内陸部に向かって750キロ離れている。セルトンとよばれる熱帯乾燥・半乾燥地帯でブラジルでも開発が最も遅れた地域だった。それが同川の灌漑設備が完成し灌漑農業(河川から人工的に水を農地に供給)ができるようになり、越山の見通した通り同地はブラジルを代表する大農業地帯に変貌している。

ここでブドウ生産を通した越山の実力を紹介しよう。このサンフランシスコ川中流域で越山がブドウを86年にイギリスへ最初に輸出した。以後93年まで同組合経由で輸出していた。この輸出は大成功し、数年後、これが契機になって同地域の農家が越山の後を追うように続々とブドウ栽培を行うようになった。現在は独自ルートで輸出を行っており、その輸出量は1万2000トンの生産量の中で約4000トンを輸出。これは同社ブドウ生産の約33%に相当しこの地域全体の約15%を占める。ブドウの品質及と品質管理が際立っていることが輸出競争力の強化につながっている。輸出用として出荷する商品の積出港は、フォートレーザ(陸送で800キロ)、ナタール(同750キロ)、サルバドール(同550キロ)と3港あり、自社保有の運搬用トラックは10台、1台25トンの積載車で1日当たり最大10台が港までブドウを運んでいる。

会社名は輸出重視も視野に入れた『Special Fruit』社と英語名になっている。最高品質の商品ブランド名は出荷用果物箱に本人の名前が記されている『Suemi』名で海外輸出や国内市場に出荷されており、ブドウとマンゴーはどこで販売されても特級品扱いになっている。国内販売でもリオとサンパウロが市場の30%だが、同社のブランドはブラジル全域に出荷されている。生産地としての同地域は欧米など海外市場へのブドウ、マンゴーなどの果物輸出が年毎に伸びている。生産供給地として今後もよほどのことがない限り輸出増加という基調変化はないといわれている。

そこで『Special Fruit』社の生産規模をみてみよう。農場総土地面積は4000haで果樹園総栽培面積は1000haと広大だ。 主な果樹栽培品目は、ブドウ栽培は83年から始めて現在250haの面積に250万本の栽培本数、年間1万2000トンの生産量、うち30%が輸出、国内市場が70%を占めている。00年から事業化したマンゴーは700haの面積に350万本を栽培、年間1万6000トンの生産量。2つの栽培地とも桁違いの生産面積と生産量であり、直接自分の目で確かめないとその栽培面積の大きさが分からないのが本当だ。この2品目で売上高の95%を占めている。輸出先は米国、欧州(10か国)、中東(ドバイ)、アルゼンチン(10日間かけて陸上輸送)などだ。「今年は日本向け輸出の再開を検討している。また今後マンゴーの栽培面積を1000haに拡大していく方針」と越山は輝きのある顔で答えた。13年から生産を開始したメロン栽培は200haの面積で、すでに5000トンを生産している。

また本社敷地内に隣接する果樹出荷用再生産センターは、大型冷蔵施設数か所を始め、ブドウとマンゴーの、洗浄、熱処理、選別、出荷先、梱包など建坪面積は1万5000平方メートルと大きい。安心と安全を前提に設計された建物は、清潔さが保たれ社員教育が行き届いていた。

なぜ『Special Fruit』社の果物が売れるのか、『Suemi』ブランドの評価が高いその越山の優良品づくりに賭ける好例をブドウで紹介しよう。ここに至るまでの経緯と背景は、93年にコチア産業組合の倒産により、越山がSpecial Fruit社を設立したことから始まる。ウバイタリア種を00年まで輸出、01年から種無しブドウを生産しイギリスやアメリカなど市場が望んでいたブドウを輸出できるようになった。その輸出は大成功していった。初めて収穫するブドウは1年に1回の収穫だが雨が降れば収穫は全滅した。08年までこのトンプソン種の品種を植えてきた。ブドウは北半球の欧州と南半球圏のこの地域では、収穫時期のタイムラグがありこれで輸出が成功した。いまもこの市場性向は変わらない。これがこの地帯の特徴だ。

そして08年がブドウ栽培の転換期になった。理由はリーマンショックによる世界的な経済危機により輸出が一挙に不振になり、しかも契約金額の半値以下しかお金は回収できなかった。その年の08年にカリフォルニア州にブドウの新品種を探しに行った。サンウォルテ社からミギナイトという新品種の種無しブドウ苗木を輸入した。月間5%のロイヤリティを払い続けた。続いてEFJ社からも新品種を購入した。この品種はスイッチグローボ(青いブドウ)といい欧州の顧客が好んで食べていた。同時にコットンケント種が特別な品種として特に米国と欧州で爆発的に売れていた。この種は全体の10%しかなく理由は生産が非常に難しい事だった。また雨に強い甘くて年中ある品種も開発したがブラジル中で売れているアラキング種が市場全体の50% を占めている。

この越山とSpecial Fruit社によるこだわりのブランドづくりは「畑でいい品質のいい果物を生産すること」「生産性を高めつつ品質と品質管理技術を常に向上させていること」「Special Fruit社のブランドを絶えず高めること」。これは越山を筆頭に全社員の日常の努力によってこのブランドが支えられていることを忘れてはならない。(つづく 敬称略 文責 カンノエージェンシー代表 菅野英明)(サンパウロ新聞)

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(後)ブラジルの未来を切り開く日系人経営者 越山 末巳

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