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ドバイに学ぶ観光戦略

普通であれば忙しいはずの年度末、わざわざ休暇を取ってドバイに行ってきました。お目当ては3月31日の競馬の祭典、ドバイ・ワールドカップ。趣味が高じて各方面にご迷惑をおかけしましたが、筆者にとってはこれが「人生初中東」。ごく短い期間とはいえ、噂にたがわず「あっと驚く」ドバイ経験を積み重ねることができました。

そこで日本に戻ってみたら、IR法案の与党内決着が話題になっている。「カジノ解禁」に関する危惧は分からないではないですが、ドバイのような徹底した「観光立国」路線を見た後では、いかにもピント外れの議論に思われてしまいます。世界的な「観光産業の時代」をどう考えるべきなのか、私見を述べてみたいと思います。

●かつては知られざる国であった

その昔、全世界でハイジャック事件が相次いだ時期があった。その中のひとつに1973年のドバイ日航機ハイジャック事件がある。おそらくは「よど号」事件(1970年)やダッカ事件(1977年)の間に挟まって、多くの人の記憶から消えているのではないかと思う。

同年7月20日、パリ発アンカレッジ経由羽田行きの日航ジャンボ機は、連合赤軍とパレスチナ解放人民戦線に乗っ取られ、ドバイに緊急着陸した。その後、3日間駐機して日本政府と交渉するが解決できず、飛行機はリビアに向かう。そこで乗客は解放され、機体は爆破される。犯人たちはカダフィー大佐の「黙認」のもと、国外逃亡に成功する。

こうやって書き出してみると、つくづく時代を感じさせる野蛮な事件である。しかし当時中学1年生であった筆者の記憶に鮮明に残っているのは、当時の「世界地図のどこにもドバイという地名はなかった」ことである。

ドバイはもともとアラビア海に面した漁村で、真珠の輸出を主要産業としていた。その後は英国の中東進出に伴い、中継貿易の拠点となっていく。そしてハイジャック事件の翌1971年、英国のスエズ以東撤退に伴い、アブダビなど他の首長国とともにアラブ首長国連邦(UAE)を結成することになる。

そして半世紀前には地図にも載っていなかったドバイは、今では中東を代表する国際都市に生まれ変わった。埼玉県くらいの面積に人口はわずか245万人、しかもその8割以上は外国人と言われている。一人あたりのGDPは3万9000ドル。誤解なきように願いたいのは、これが石油によってもたらされた繁栄ではないということである。UAEは世界第7位の石油埋蔵量を誇るが、その94%はお隣のアブダビにある。ドバイはむしろ商業都市、金融都市、そして観光都市たらんとして成功を収めてきた。

この間、一種の過剰投資が行われている懸念もある。リーマンショック後の2009年11月には「ドバイ・ショック」という事件も起きている。このときは政府系不動産会社のドバイ・ワールド社の債務不履行が噂され、欧米系金融機関の債権焦げ付きの怖れからユーロ安を招くという騒動になったものだ。その後、アブダビ政府がドバイ支援を決めたことで危機は沈静化するが、国際金融市場の影響を受けやすいことが浮き彫りになった瞬間であった。ドバイ政府の投資は決して透明性が高いものではなく、シェイク・モハメド国王の野心的な計画は「危ない橋を渡っている」面があることを忘れてはならないだろう。

ドバイは2020年には万国博覧会を開催する。2022年にカタールで予定されているFIFAワールドカップと併せて、今後は中東湾岸地域に注目が高まることだろう。それにしてもこの半世紀間のドバイの成功は、どこに理由があったのだろうか。

●発展の鍵は「外から人がやってくること」

ドバイ発展の理由その1は「ハブ機能」であろう。「ドバイは西のシンガポール」と考えると分かりやすいかもしれない。

特に国際航空ネットワークにおいて、ドバイ国際空港が果たしている役割は大きい。もちろん24時間運航で、国際線の年間乗降者数はロンドン・ヒースロー空港を上回り世界一となった。そしてナショナルフラッグのエミレーツ航空は、ここからすべての大陸に向けて便を飛ばしている。あらゆる言語に対忚できるのが「売り」で、日本人のキャビンアテンダントだけで400人を擁するというから驚くほかはない。

中東は「アジアと欧州とアフリカ」という3大陸の中間に位置している、という「地の利」もある。これは現地駐在員に聞いた話だが、3月最終週のドバイ空港で日本行きの便が急に取れなくなったという。理由は「花見客のため」。日本の桜のファンは世界中で急増しているが、開花の時期だけは事前に予想することができない。特に今年は例年よりも早く、3月下旬になって「もう咲いた」というニュースが流れた。それと同時に、ドバイ発の日本行き便の予約が殺到したらしい。

近年、都内の桜の名所では外国人を良く見かける。とはいえ、アラブ人風の観光客はそれほど多くはない。ところがエミレーツ航空は、欧州、ロシア、南米、アフリカなど広範な地域を結びつけている。いろんな地域の「桜ファン」が、いっせいにドバイ経由で日本を目指すために、こういう現象が起こるのであろう。

もうひとつの発展の理由は「観光資源」である。ドバイにはいくつもの「世界一」がある。以下はご存知のものが多いだろうが、まるでディズニーランドのような世界が広がっている。筆者の訪問の理由となった「ドバイ・ワールドカップ」も世界最高賞金額であり、全世界から多くの競馬ファンを集めている。

○ドバイの代表的な観光資源

●インバウンドの経済効果はかなり大きい

海外からの訪問客は、どれくらいの経済効果をもたらしているのだろうか。これについて、マスターカード社が発表している”Destination Cities Index”という統計が役に立つ。

○世界の都市の国際観光客ランキング(2016年)1

*支出額8位は台北(735万人、99.1億ドル、+6.9%)、10位はバルセロナであった。

ドバイは外国人訪問客数で世界の都市で第4位だが、その消費額ではダントツ第1位、日本円にすればほぼ3兆円である。同国の経済規模を考えれば、「外から人を呼んできて繁栄につなげる」戦略は、見事に成功を収めていることになる。

しかるによくよく考えてみれば、日本人観光客にとってドバイはそれほど素晴らしい場所ではない。まずドバイは暑い。4月を過ぎると気温は40度を超えるそうである。次にイスラム圏であるために(比較的自由な方だとは言うものの)、お酒や豚肉が手に入りにくい。ホテルの朝食にベーコンがない、というのは個人的には軽いショックであった。もちろんギャンブルもご法度である。従って、ドバイ・ワールドカップでは勝馬投票券を発売していない。賭けたかったら、インターネットで海外の馬券サイトを使うしかない。世界の富裕層を惹きつけてやまないドバイは、こう見えて意外と不自由な場所なのである。

つまるところ、ドバイの「ハブ機能+観光資源」とは「弱者の戦略」だということに気づく。ドバイには歴史や文化的な資源も少ない。もちろん古くから金取引が行われている市場や、古い時代の文物を保存しているドバイ博物館もあるのだが、正直、感心するほどのものではない。歴史や文化的資源であれば、日本国内にもっとすごいものがいくらでもあるのだから。

マスターカード社のランキングを見ると、われらが東京の外国人訪問客数は世界第9位の1115万人。世界的に見れば赤丸急上昇中であって、2012年には489万人に過ぎなかった。これに合わせて支出額の方も、61.5億ドルから112.8億ドルへと倍増の勢いとなっている。いくら東京が巨大都市でも、この急成長による経済効果は小さくないだろう。

さらにこの調査によれば、2009年から2016年にかけて「世界で最も観光客数が伸びている都市」はなんと大阪である。最近よく聞く大阪発の情報を思い合わせると、「いかにも」と頷けるデータである。

●IR法案の論議はここがズレている

さらに同調査によれば、2009年から16年の間に世界経済のGDPは21.8%増加している。年平均3.1%は、けっして高いとは言えない。ところがこの間に、世界132都市における外国人観光客数は55.2%伸び、その支出額は41.1%増加している。7年間でざっくり5割増しである。

思えば世界経済の規模は、とっくに「人口:70億人、GDP:70兆ドル」を超えている。つまりGDP1人当たり1万ドル以上の時代を迎えている。これだけ豊かになれば、海外旅行をする人口は激増する。そろそろ世界が貧しかった時代の常識を捨てなければならない。これから先は、国際的な人の移動が世界経済の主要エンジンと考えるべきだろう。つまり観光客の増加が、世界経済をけん引する時代である(本誌では、以前からこれを「遊民経済学の時代」と称している)。

ところが日本に帰って来てみると、4月3日に「与党IR実施法に関するワーキングチーム」が、IR実施法について合意した、というニュースが流れている。これが変に細かい話ばかりで、なおかつそれが世間的にはとっても不評なのである。ドバイ帰りの眼には、どうにも異和感を禁じ得ない。

○自民党と公明党の合意内容
* カジノ施設規模規制・・・延べ床面積の3%以内
* 入場回数制限・・・7日間で3回+28日間で10回
* 本人確認手段・・・マイナンバーカードを活用
* 入場料・・・6000円
* 納付金率・・・一律30%
* 区域認定数・・・上限3か所

IR基本法案は議員立法で2016年末に成立し、1年以内に政府案を作ることを定めていた。ところが昨年秋、解散・総選挙が行われたために法案作成は1年遅れとなり、自公間で協議が行われてきた。上記の内容は来月にも閣議決定されるとして、今国会中に法案が成立するかどうかは正直、微妙なところであろう。

IR(Integrated Resort=複合型リゾート)の建設は、「ハイエンドの観光客を取り込む」国際競争に日本が参戦することを意味する。つまりドバイに負けないようなものを作らねばならない。ところがカジノのことばかり、それも入場料がいくらかといった国内向けの議論ばかりが取り沙汰されている。しかるに上記で合意されている通り、IRの中でカジノ施設規模は全体の面積の3%以下と定められている。カジノで発生する収益を使って、それ以外の97%の土地に何を作るのか、という議論がまったくなされていない。わざわざ夢のある議論を避けてしているように見える。

この話における最大のリスクは、せっかく内外の民間投資を呼び込み、巨額の費用をかけてIRを建設してみたものの、世界の富裕層から「やっぱりシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズの方がいい」と見なされてしまうことであろう。国際競争に参加するときは、優勝务敗がつきものである。国内の依存症対策はもちろん重要ではあるけれども、対外的な評判のことも少しは心配した方がいい。

●真剣に「遊民経済学」の可能性を考えよう

IRが97%の土地に創ろうとしているのは、MICEと呼ばれる巨大ビジネス施設である。

M:Meeting (会合)
I:Incentive Tour (ご褒美旅行)
C:Convention (国際会議)
E:Exhibition/Event (見本市・イベント)

この手の設備は、近年では世界中で増えている。ところが日本で行われるイベントは、いつも幕張メッセやパシフィコ横浜などの古い施設が使われている。例えばわが国の「オタク・カルチャー」の祭典たる夏冬2回の「コミケ」は、手狭な東京ビッグサイトで行われている。わざわざ3日間の会期を区切って、参加者を細かく割り振るのだが、それが手弁当の運営でトラブルなしで行われていることが一種の「美談」になっている。文化的状況として、いささか寂しいことではないだろうか。

この手の「箱モノ」は近年評判が悪い。それは税金を使って作るからであって、行政が作る箱モノは面白くないし、得てして「金食い虫」になってしまう。だから民間の資金を使ってMICEを建設し、維持費はカジノで稼ぎつつ、ドバイやシンガポールに負けない規模で外国人観光客を呼び寄せましょう、というところにIR法案の狙いがある。しかも、カジノの売上総利益からは3割の納付金を取る。その上で経常利益が出れば、法人税や事業税も取ってしまおう、行政にとってはかなり「虫のいい話」でもある。

思うに日本の観光戦略は、いつも「オマケ」の発想から抜け切れていない。ちゃんとした産業があるのだから、観光などで儲けちゃいけないという「傲慢さ」がある。そもそも「外から人を呼び込む」という意識は、ほんの数年前まで存在しなかった。しかも日本には、ドバイがうらやむような観光資源がある。豊かな自然、治安の良さ、移動の便利さ、美食、文化資源、歴史資源、世界遺産、そしてウィンタースポーツからマリンスポーツまでできる環境など、いくらでもカードがある。そういう状況に甘えて、これらの資源をちゃんと使えているだろうか。

ドバイの真摯な努力に比べると、日本の観光戦略はあまりにもお粗末なものに思える。以上、ドバイで遊んできた者の放言として、お聞き流し願いたい。(BLOGOS)

dobai300万人のドバイが観光収入3兆円を稼ぐワケ

レディーフォー代表取締役 米良はるかさんミラカナへの思い

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