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スタートアップとスモールビジネス 6つの違い

スタートアップは難しい。成功する確率は1割もないと言われている。本連載の筆者である田所雅之氏は失敗を防ぐための「科学的な起業」について研究し、その成果をまとめたスライドは1750枚にもおよぶ。今回は、そこからスタートアップとスモールビジネスとの違いを説明する。

田所雅之氏。1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日米で起業、シリコンバレーで活動した。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。2017年、新たにスタートアップの支援会社を設立。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ

2017年までベンチャーキャピタリストとして活動していたときは、毎日のように多くの起業家から連絡が入った。私に話しに来る目的は資金調達したいからだ。「こんなビジネスモデルで、今、時価総額(バリュエーション)は5億円で、今回7000万円集めたいので、投資を検討してください」と相談を受けた。

しかし、よくよく話を聞くと、彼らはスタートアップではなくスモールビジネスを展開しているだけというケースがよくあった。

スタートアップとスモールビジネス。この2つの違いを分かっていない起業家が多い。

中には「起業=スタートアップ」だと思っている人もいるくらいだが、起業の多くはスモールビジネスであり、スタートアップはその一部にすぎない。スタートアップならではのアイデアを磨くために、スモールビジネスとの違いを見ながら、スタートアップとは何を目指す組織なのかを考えていこう。

■違い(1)成長方法

スタートアップの理想的な成長曲線はキャッシュ(保有する資金)がいったん右肩下がりに落ち込んだ状態から急浮上(二次関数的、場合によっては三次関数的な角度になる)を見せるJカーブを描く。成功した暁には巨額のリターンを短期間で生むことができる。

 

かたやスモールビジネスは、従業員を増やしたり、商品ラインアップを増やしたり、店舗を拡大したりするなどして初期の段階から線形的(一次関数的)に徐々に成長していく。そこそこのリターンを着実に得ていくモデルである。

■違い(2)市場環境

おそらくこれが最も分かりやすい違いになるが、スモールビジネスは既に存在する市場をターゲットにする。一方で、スタートアップが狙う市場は、それがそもそも存在するかどうかさえ確認されておらず、その前段に当たるアイデアの発見・仮説検証から始める必要がある。

そういった意味でスタートアップはハイリスク・ハイリターンを狙うものであり、本連載の目的は、そのリスクをできるだけ減らすことにある。

また、市場が不確実であるがゆえ、参入のタイミングが重要になる。

例えば、おしゃれなカフェを開くなら、いつ開業しようとあまり関係はない。リラックスしながらおいしいコーヒーを飲むことの価値や、カフェとビジネスに求められる要素は、10年前とそれほど変わらないだろうし、今から10年後もさほど変わらないだろう。

スタートアップのファウンダーは「なぜ、今やる必要があるのか?」という問いに対して合理的な説明ができないといけない。

■違い(3)スケール(事業拡大)への姿勢

スタートアップは一気にスケール可能になるモデルであると同時に、「スケールすることを運命づけられた取り組み」でもある。スケールとは、ある一定の規模を超えた瞬間に、ネットワーク効果(顧客が増えるほど顧客のメリットが増すこと)や規模の経済性が働き、一気に市場を席巻して二次曲線的に成長する道筋のことである(フェイスブック、グーグル、Airbnb、メルカリなどを思い描いてほしい)。

一方、スモールビジネスは既に市場があり、Product Market Fit(PMF、市場で顧客から熱狂的に愛される製品のこと)を達成できているものに対して事業展開するので、スケールよりもいかに事業の採算性(ユニットエコノミクス)を高めるかが重視される。そこさえ達成できていれば生き残りをかけたスケールを行う必要はない。

■違い(4)ステークホルダー

スタートアップに資金提供するのはVCやエンジェル(個人投資家)であり、スモールビジネスに資金提供するのは銀行や信用金庫などの金融機関だ。

VCは出資した額に対するキャピタルゲイン(株式売却益)を求めるので、一気にスケールする可能性を秘めたスタートアップしか相手にしない。金融機関の多くはインカムゲイン(利息)を求めるので担保や過去の業績をベースにした堅実な収益予測を立てられるビジネスモデルしか相手にしない。

■違い(5)対応可能市場

ラーメン店、バイク便、理髪店のように、商圏が限られているビジネスはスタートアップではない。

フランチャイズモデルを目標にするなら商圏は全国に広がるが、あくまでもプロダクトそのものが、ある商圏内で消費されるのであれば、それはスモールビジネスである(なぜなら、地理制約が強いと、指数関数的に成長できないからだ)。

■違い(6)イノベーションの手法

フェイスブックが人々の交友の仕方を変えたように、スマートフォンが私たちのライフスタイルを変えたように、スタートアップがもたらすイノベーションは既存市場を覆すディスラプティブ(破壊的)なものであるケースが多い。

既存市場に対して着実な改良を加えていく持続的イノベーションは、スタートアップが行うべき取り組みではない。

私はここでスモールビジネスを否定したいわけではない。大事なポイントはスタートアップとスモールビジネスは前提が全く違うということだ。

そもそもPMFを達成した状態(市場や人が欲しがるものが何かがはっきり分かっている状態)から始まるスモールビジネスは、価値提案やソリューションの型も大部分がすでに出来上がっているので、いかに効率よく経営するかがポイントになる。つまり、競争優位性を高めるにはディストリビューション(届け方)、広告、値段や商品の品ぞろえなどがキーになる。

これに対して、スタートアップが住む世界は、スモールビジネスの起業とは比べものにならないほど不確かなものだ。その覚悟をしっかり持つ必要がある。

ただし、PMFを達成し、スケールできた場合の果実はとてつもなく大きい。フェイスブックの株を20%以上持っているマーク・ザッカーバーグCEOの個人資産は10兆円近いといわれている。

■スタートアップは一時的な組織

優れた起業家教育で知られる、スティーブ・ブランク氏は、スタートアップを次のように定義づけている。

「スタートアップはスケーラブルで、再現性のある利益を生み出すビジネスモデルを探索する一時的な組織である」

「一時的な組織」という指摘は耳慣れないが、これはスタートアップをこれから志す人にも重要な視点だ。

つまり、スタートアップがPMFを達成してスケールする段階になったら、新たなビジネスを生むことより経営効率を追求する「一般企業」に変わる必要があるということだ。

これはどんなスタートアップでも避けることはできない。コアメンバーが同じであっても未来永劫(えいごう)スタートアップであり続けることは論理的にあり得ないのだ。創業メンバーはステージが先に進むにつれ自分たちも変化(進化)し続けなければならない。

「ゾンビスタートアップ」という言葉がスタートアップの世界にはある。スタートアップとして始動したのに10年、20年たってもスケールせず、そうかといって倒産もしない会社のことだ。

実はこうした会社がたくさん存在する。だいぶ前に資金調達はしたがIPOのチャンスを逃し、当座の食いぶちを確保するために始めたはずの業務(受託業務やコンサルティング業務)がいつの間にか事業の柱になっている。

VCなどから資金調達をしているにもかかわらず、スケールやイグジットができない状態になり、スモールビジネスを手掛ける会社になっている。やがてVCから資金回収を迫られ、手元資金が尽きて、解散してしまうことになる。

グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといった会社は、スタートアップ起業家にとっては羨望の的だ。しかし、これらの会社は既にスケールしており、現在はスタートアップではなくなっている(これらの企業は新規事業を数多く立ち上げているが、あくまで、着実に成長できる本業で稼いだキャッシュを新規事業に再投資している状態であり、組織としてはスタートアップではない)。

そもそも、スタートアップとは市場が全くない「0」の状態から「1」を生み出す組織である。世に言うシリアル・アントレプレナー(連続起業家)は、アイデアを生み出しPMFを達成して「0」から「1」を生む能力に優れ、そこにモチベーションを感じる。

スタートアップがスケールして一般企業になるとき、トップに求められるのは事業を拡大する能力や組織全体のモチベーションを保つこと。この段階で求められるのは「1」を「100」にすることであり、経営陣としての役割はスタートアップと全く異なるものになる。

■「スタート」して「アップ」できるか?

私のメンターの1人に曽我弘氏という伝説の起業家がいる。

曽我氏は新日本製鉄(現・新日鉄住金)で定年まで働いた後、シリコンバレーに移住し、そこからスタートアップ7社を立ち上げて6社を潰し、その次の1社、スプルース・テクノロジーズをスティーブ・ジョブズ氏と直接交渉して2001年にアップルに売却した人物だ。

世の中の起業のほとんどは「スタートアップもどき」だと曽我氏が私に話したことがある。

道なき道であっても果敢に「スタート」し、短期間で成果を「アップ」するという覚悟で挑んでいないなら、それはスタートアップではない、というのだ。

Y Combinator(YC)の創業メンバーであるポール・グレアム氏も「スタートアップは急成長するようにデザインされた企業だ。高いテクノロジーを持ち、VCから投資を受けていても、イグジット戦略を持っていても、急成長していなければスタートアップとは呼べない」と、曽我氏同様の指摘をしている。

PMFを達成して、ユニットエコノミクス(顧客1人当たりの採算性)を健全化できたら、大企業が参入して来る前に一気にスケールして市場を席巻するのがスタートアップの宿命であり戦略だ。

スタートアップを始める人たちは、このことを肝に銘じておいてほしい。(日経経済新聞)

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