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AIで死後の記憶を残せるか

20xx年、Aさんの家族がタブレット端末に話しかける。「イヌを飼いたいけれど、どう思う?」。すると、画面上でAさんが笑った。「きちんと世話をするなら。プードルかシバイヌがいいな」。実は、Aさんはもうこの世にいない。家族と話しているのは、生前の記憶データをもとに人格を忠実に再現した人工知能(AI)だ。脳の活動を読み解く技術や体験を記録する装置の開発が進めば、会話や風景、嗅い、さらに思考や感情などあらゆる記憶がデジタル情報として記録できるようになる。過去の記憶を自由に検索し、持ち主と同じように考えるAIを作れる可能性もある。一方で、記憶という究極のプライバシーが流出したり、悪用されたりする危険もつきまとう。

■脳の血流から「夢でみたもの」推定

脳波などを測定し、見ているものや考えていることを解読する研究はこの数年、急速に進んでいる。

京都大の神谷之康教授のグループは、脳の活動で生じる血流の細かな変化を「機能的磁気共鳴画像法(fMRI)」を使って測定し、目で見たものや夢に現れたものが何なのか推定することに成功している。現在は、様々な画像を見た際の脳活動のパターンをAIに解析させ、頭の中に浮かんでいる画像そのものの復元にも挑戦している。

写真のように鮮明な解読はまだできないが、フクロウやアルパカの画像を見せる実験では、脳活動のパターンから、動物の輪郭を描いた抽象画のようなイメージを画面上に再現できた。脳の信号を読み取る技術とAIの発展が重なれば、よりリアルな解読ができるはずだ。

ただ、脳の仕組みはなぞだらけで、どこまで解読が進むかはわからない。神谷さんは「想像できないくらい難しい」とした上で、「脳活動のパターンを相手の脳に伝えてイメージや感情を共有できる時代が来るかもしれない」と話す。

■「念じれば文字」実用化目指す

フェイスブックは4月、思い浮かべた文章をキーボードを使わず、瞬時に打ち込むシステムの実用化に乗り出すと宣言した。脳とコンピューターをつなぐ「ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)」と呼ばれる分野で技術革新を起こし、特定の思考を読み取る革新的な装置を実現するという。

電気自動車メーカー「テスラ」を経営するイーロン・マスク氏は、脳に微小電極を埋め込むなどしてコンピューターとつなぐ装置を開発するベンチャー企業を立ち上げた。記憶など脳の働きをAIが補助するシステムを目指しているとされる。

「現状の技術ではとても難しいが、10~20年後ならできるかもしれない」。情報通信研究機構・脳情報通信融合研究センターの鈴木隆文さんはこう見る。鈴木さんらは、脳の表面に貼り付けるシート状の電極を開発。脳を傷つけずに脳波を無線で取り出すことに成功した。共同研究している大阪大では、体を動かせない筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者らがロボットアームを思い通りに動かしたり、念じるだけでパソコンに文字入力したりすることに成功している。便利な機能が得られるとしても、健康な人が脳に装置を取り付けるのは抵抗が大きい。ただ、鈴木さんは「頭皮にピアスを付けるくらいの装置であればどうでしょう? 試してみたいと思う人はいるはず」とみる。

■個人の記憶、丸ごと保存「不可能ではない」

脳の解読だけでなく、日常のあらゆる体験をデジタル情報として記録する「ライフログ」と呼ばれる装置の研究開発も進む。見た風景や出会った人との会話などを記録。過去の出来事を後から詳しく調べられるようになると期待されている。

「小学生の夏休みの宿題は、『祖父母が同い年の時に考えていたことを調べよう』というテーマになるかもしれない」。東京大学の稲見昌彦教授はこう言う。思考の解読やライフログ技術の発展で、個人の記憶を外部に記録し、過去に見た風景やそのとき考えたことなどを後から自由に検索できるようになる可能性がある。

記憶データをもとに、個人の人格を忠実に再現したAIを作れるようになるかもしれない。稲見さんは「認知症になってもAIの助けで自分らしく振る舞い続けることができる。死んで肉体はなくなっても、自分の情報的なコピーを残すことも不可能ではない」とみている。

ただ、個人の記憶はプライバシーそのものだ。情報が流出すれば、メールやクレジットカードのパスワードだけでなく、個人の人生の記録そのものが他人にのぞき見られることになる。

さらに、簡単な記憶の書き換えや操作ができることも、マウスを使った実験でわかってきた。兵士の脳を刺激して運動能力や集中力を高めたり、恐怖心を抑えたりする軍事利用も不可能ではない。脳の働きを拡張する研究がどんな未来をもたらすのか、まだ先は見えない。(小林哲)(朝日新聞Digital)

 

ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)》 BMIとは、脳とコンピューターなどをつなぎ、情報をやり取りする技術。SF映画などで有名になった脳に直接、電極を差し込んで脳波を取り出す方法は「侵襲型」と呼ばれる。脳の一部を傷つけることになるため、健康な人で試すことは難しいが、より詳細な情報が得られる。米国を中心に研究が進む。fMRIなどで脳活動データを得る方法は脳を傷つけない「非侵襲型」。手術をしなくても脳の状態を測定できるが、大型装置の上に寝てもらう必要があり、小型化や低コスト化が課題になっている。

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