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取締役がたった1人で挑んだRPAプロジェクト

「RPA導入で○○時間分の作業を削減」という記事を多く目にするようになった。世間では金融機関や通信キャリアなどの大企業の事例が脚光を浴びている。しかし、読者の中には「大量の定型業務を大人数でこなしているか、昔ながらの業務フローを貫いているから、RPA導入で効果が出るのだろう」とどこか別世界のように感じることも少なくないのではないか。

 「RPA導入で○○時間分の作業を削減」という記事を多く目にするようになった。世間では金融機関や通信キャリアなどの大企業の事例が脚光を浴びている。しかし、読者の中には「大量の定型業務を大人数でこなしているか、昔ながらの業務フローを貫いているから、RPA導入で効果が出るのだろう」とどこか別世界のように感じることも少なくないのではないか。

 一方、約400人いる従業員の大半がクリエイティブな業務を担うミツエーリンクスは、ある型破りなRPA活用方法によって、業務の効率化を実現するとともに、同社のビジネスを広げるまでに至った。しかも、その導入プロジェクトは取締役がたった1人でRPAのオンライン研修を片手にはじめたものだという。「ちょっと考え方の角度を変えれば、さまざまな企業の課題解決にRPAが使えるのです」――舞台裏を探った。

RPA、大企業でなくとも導入メリットを引き出せる

 ミツエーリンクスは、Webサイトの企画や制作、Webを通じたブランディングやマーケティング、さらにはWebサイト上で利用される動画や音声コンテンツの制作などを手掛ける企業だ。同社の総務や人事、経理といったコーポレート部門の業務に関わる人数は限られており、規模の大きい定型業務も存在しないため、RPAの導入効果はさほど期待できないようにも思える。

ミツエーリンクス 山下徹治氏

 同社のRPA導入をけん引してきたのは、取締役 第四事業部長 デジタルトランスフォーメーション部 部長の山下徹治氏だ。もともと、コーポレート部門に所属し全社の業務プロセス改善に取り組んできた同氏が、RPAを知ったのは2017年のこと。ちょうど大手金融機関におけるRPAの導入事例が脚光を浴び始めた時期だった。当時の先行事例のほとんどは、コーポレート部門のルーティンワークにRPAを導入して作業の効率化を実現したものだった。しかし山下氏は、当初から少し異なる切り口でRPAの活用を模索していたという。

 「弊社のような規模の会社は、バックヤードの定型作業をRPAで自動化しても投資対効果はたかが知れています。そうではなく、主力事業のコンテンツ制作で発生する作業をRPAで効率化できないか――と考えました」(山下氏)

 例えば、あるクライアントのWebサイトの運用プロジェクトでは、資料請求の入力フォームを大量に制作する作業が発生した。ミスはクライアントのビジネス継続に影響を与えるため、入力フォームの品質チェックには静的ページの数倍もの手間がかかり、大量の人手が割かれることが課題だった。

 従来のITツールやシステム開発と比較すると、RPAは適用できる業務の幅も広く、技術的なハードルもさほど高くない。既存のITツールではカバーできなかった課題領域にメスを入れられるのではないかと考えたのだ。

取締役が1人で立ち上げたRPAプロジェクト、なぜ?

 早速、山下氏はRPAの具体的な導入へと乗り出した。主要なRPAツール3製品を比較検討し、実際に評価版を試験導入して試用してみた結果、最終的に「UiPath」を採用したという。

 「UiPathは機能が豊富で、UI(ユーザーインターフェース)も分かりやすく使い勝手が良いと感じました。当初は安価なデスクトップ型でスモールスタートして、将来、規模が拡大した場合にサーバ型に移行できる点も、弊社の事情に合っていました」(山下氏)

 RPAプロジェクトを小規模で、素早く立ち上げるために、当初は山下氏が1人でUiPathのオンライントレーニングを受講し、開発スキルを習得した。「会社を休んで、学習と開発に時間を割くこともありました」と話すほど、集中して臨んだという。開発だけならば、他の従業員に任せてもよさそうだが、将来的には外部の顧客向けのRPAサービスを立ち上げることを考えていたので、「ロボットで実際に何ができるのか」「どのようなニーズがあるのか」を見極めるために人任せにはできなかったという。この勢いで山下氏は、1週間に約1体のロボットを開発していった。

 実案件で最初に制作したのは、Webサイトのリニューアルをサポートするロボットだ。旧サイトから新サイトへコンテンツを移行する際は、大量の定型作業が発生する。これを自動化するロボットを作成し、コンテンツ移行作業を大幅に効率化した。この成功が評判を呼び、社内から次々に「うちの作業もRPAで自動化できないか」という相談が寄せられるようになった。

 その他、2000を超えるPDFファイルのセキュリティ設定を変更する作業を、RPAで自動化したケースも大きな効果を上げた。人手で10人日は掛かる煩雑な作業も、RPAで代替すればわずか1日半で完了でき、全体の作業工数は約5分の1にまで減った。

 AI家電の教師データとして使う音声サンプルと波形データを作成する案件では、大量のテキスト作成と波形データへの挿入作業を行わなくてはならず、手作業では1日当たり2~3の波形データしか作れないという問題があったが、これをRPA化することで、40分で1つ分の作業を終えられるようになった。

 上記した例以外にも、社内では幾つも成功事例が生まれている。「どのようなロボットを作るのか」を考えるのは難しそうだが、アイデアは現場の従業員からも吸い上げている。

 「『Backlog』というタスク管理ツールを使ってRPA専用の相談窓口を設け、広く開発依頼を募るようにしました。基本的にはどんな開発依頼も断りません。中には、あまり効果が出そうにない相談もありましたが、優先順位を下げることはあっても決して断ることはせずに、気軽に相談できる雰囲気作りに努めました。依頼内容や回答の内容も、全従業員が参照できるようにしています」(山下氏)

 同社のやり方は本当に効果が出るのかと疑問に思う人もいるだろう。ミツエーリンクスで利用するロボットの大半は、特定のプロジェクト向けに開発したもので、プロジェクトが終われば使い捨ててしまう。RPAの導入効果を得るには、投資対効果の高いロボットを長期間に渡って運用し、人件費削減や作業ミス低減などのメリットを積み重ねていくことで投資を回収する必要があるといわれている。そのため、同社のやり方セオリーに反しているようにもみえる。

 しかし、同社は1年半以上に渡ってこの方法でRPAを運用し、ロボット1体につき約2分の1~3分の1の業務削減を実現した。何より、これまでは引き受けるのが難しかった案件も積極的に請け負えるようになったことが成果だった。成功の鍵について山下氏は「ボリュームの多い定型業務の自動化に考えを閉じてしまうと、特に中小企業はRPAで効果を出すのは難しいと思います。RPAで何ができるのか、常にアンテナを張ることが重要です」と力説する。

 現在は、案件の増加に伴い、デジタルトランスフォーメーション部のメンバー4人が開発を担当し、毎週3体ほどのペースで新たなロボットを作っている。ほとんどのメンバーは、本格的なシステム開発の経験がないが、日々着実にノウハウや知見を身に付けている。並行して、品質の高いロボットをスピーディーに作成するための仕組みやルールも整備した。

 「ロボットの品質を確保するために、開発したロボットは必ずレビューしています。さらに、サイト運用作業などで比較的長い期間使うものに関しては仕様書も残します。一方、特定の作業用にスポット開発するロボットに関しては、スピードとコストを優先させて仕様書を残さないことがほとんどで、『正しいアウトプットさえ出ればOK』という基準で開発しています」(山下氏)

既存の業務の置き換えではなく、アイデアを具現化するためのRPA

 開発体制などを整えた今、同社のRPA活用は次なるフェーズに進んでいる。2018年12月よりUiPathの販売事業を手掛けるようになり、同製品を使ってWebサイトの制作、運用作業を効率化するサービスの提供もスタートした。

 「Web業界でいち早くRPA事業に乗り出したいという思いを持っていました。そのためにも、なるべく早く社内に導入して、利用ノウハウを蓄積する必要があったのです。現時点では、お客さまにRPAの良さを知っていただくために、気軽に試せることを優先しています」(山下氏)

 社内のRPA活用でも、面白い取り組みが生まれているという。同社内には、上述したような一時的に利用するロボットだけでなく、継続的に運用を続けているロボットが存在する。ただし、これは既存のルーティンワークを置き換えるものではなく、RPAが今まで誰もやっていなかった「ひと手間」の業務を行うことで、仕事の質を高めるきっかけになっている。

 例えば、運用中のWebサイトのパフォーマンスをロボットが毎日巡回チェックし、チェック結果を自動的に社内SNSに投稿している。その投稿をきっかけに、パフォーマンス改善策のアドバイスやナレッジの共有といったコミュニケーションが生まれている。その他、「Microsoft SharePoint」に記録されているコンペのスケジュール表をロボットが定期的に巡回チェックし、商談まで3日を切ったら「3日前なので提案書のレビューを行ってください」というメッセージを社内SNSに投稿するような仕組みを構築した。後者のケースでは、提案書を複数の従業員でレビューするというフローが生まれたことで、質の高い提案ができるようになった。

 山下氏は、既存業務の置き換えという枠にとらわれず、今後も新たな仕事を作るネタとして、また業務品質や収益の向上につなげるきっかけとしてRPAをどんどん活用したいと話す。

 「将来的にはRPAとAIを連携させて、お客さまからいただいたコンテンツの中身をAIが解釈し、それに沿ってサイトを自動的に更新できるような仕組みなども構想しています」(山下氏)

トップダウンでやる意味

 たった1人でRPA活用をはじめ、自社に合った活用方法を模索して、導入プロジェクトを力強くけん引してきた山下氏。最後に、トップダウンで導入を進めるメリットを話した。

 「経営のトップは、会社の状況を俯瞰的に見ているので、あらゆるフェーズの意思決定を素早く正確に下せます。権限を持っていることから、何かをはじめることの障壁も比較的小さい。例えば、『予算がなくても、まずはやってみよう』という方針も、トップだからこそ決断でき、実行できるのです」(山下氏)

 世間では、現場がボトムアップで主導するRPAプロジェクトも少なくないが、トップが強いリーダーシップでプロジェクトを引っ張ることが1つの成功パターンなのかもしれない。(IT Mediaエンタープライズ)

まずは小さなところから、簡単なところから導入することで小さな成果を出していくことがビックプロジェクトに繋がっていくコツかもしれません。

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