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海外起業 順風満帆だったイギリスでのビジネスに一瞬吹いた「不安のすきま風」

人工知能ベンチャーを2度目の起業に据えた僕は、主戦場のアメリカからイギリスへとビジネス戦線を拡大している。第1回でも書いた通り、2月下旬、ロンドンに降り立った僕は高揚感に満たされていた。

しかし、イギリスでのビジネス的な肌触りはアメリカと若干異なり、一瞬戸惑ったのも事実だ。今回はそこにフォーカスしたい。

2月26日、僕は猛烈なやる気とともに目を覚ますと、ホテルの1階に降りて無料のコーヒーをがぶ飲みし、早速、展示会場に向かった。なぜこんなにやる気に満ち溢れているのだろう。どこまでも頭が冴え、極めてはっきりとした意識がある中、全身にグルグルと血液が流れている気がする。この日、自分でも抑えきれないほどの熱量が、僕にはあった。

朝9時から始まったオープニング・セッションに参加すると、あとはホールに出て、イギリスの水道会社の役員たちと話しまくる。「僕たちはフラクタという、アメリカのソフトウェア会社です。人工知能を使って、上水道配管の劣化部位を特定することができます。従来型の方法と比較すると精度が高いばかりではなく、道路を掘り起こす必要もないため、費用も安いです。もしよければ、イギリスで一緒に実証実験のパートナーになってもらえませんか?」。こんな調子だ。

「それは素晴らしい。ぜひうちの水道会社の配管データを使って、実証実験に参加させてもらいたいです」。水道会社の役員が答える。イギリスはアメリカと同じく、配管が非常に古くなっており、また水道管からの水漏れが非常に多い、漏水大国だ。間違いなく市場があるとは思っていたが、話しかける水道会社のイノベーション担当役員は、みな一様にポジティブな返答を返してくれる。

要は、困っているのだ。今年1月の終わりに、僕たちフラクタは日本の総合商社である丸紅と、イギリスを中心とした欧州市場に参入するための共同事業契約にサインをした。当時、水道事業担当の課長だった寺山さん、現課長の畠中さん、課員の山室さん、またその水道事業を統括する事業部の部長である千葉さんとは、かなり長い間、突っ込んだ議論をさせてもらってきた。

左から、畠中さん、著者、山室さん、ヒロ、マイク

左から、畠中さん、著者、山室さん、ヒロ、マイク

僕たちは欧州の水道事業に関する知見はなく、一方で丸紅はポルトガル(ヨーロッパ)や、チリ(南米)を中心に世界中で水道事業を展開している実績があり、僕たちは、アメリカや日本以外の市場への参入に関して、丸紅の持つネットワークだけではなく、丸紅が抱える熱き水道事業の商社マンたちと一緒に市場を開拓してみたいと思っていたのだ。

ロンドンの展示会に、まずは丸紅の山室さんが合流した。一緒にイギリスの水道会社の役員たちと話す。とにかく人に会っては、「実証実験を一緒にやりませんか?」と話をする。ポジティブな返答が返ってくる。この繰り返しだった。僕たちはスペイン料理屋さんで初日の反省会を行うと、ほっと胸をなでおろした。もちろん、この初日が始まる前は、僕たちフラクタも、丸紅の皆も、新しい市場に入るということ、自分たちのアクションに対して、ある種の不安があった。

翌2月27日は、朝から展示会の会場とは車で20分ほど離れたところにあるカフェで、イギリスのある水道会社の人間と待ち合わせをしていた。僕はカフェに到着するなり、パソコンを開けて、フラクタのソフトウェアのデモ画面を見せながら、自分たちがアメリカで何を作ったのか、どうしてこれがそんなにすごいことなのか、これをイギリスに持ってくるとイギリスの水道会社にどのようなメリットがもたらされるのか、どうしてこのタイミングで僕たちと実証実験をやったほうが良いのか……とにかくまくし立てる。イギリスに滞在できる時間は3日間しかない。短い時間の中で、何人かの人を説得してアメリカに帰らなければならない。

しかし、本当に大丈夫かな、興味を持ってもらえるかな、という入口にあった多少の不安とは裏腹に、イギリスの水道会社の返答はどこまでもポジティブだった。

カフェでの水道会社ミーティングを終えて展示会に向かうタクシーの中で、12年前に南米のボリビアからイギリスに移民としてやってきたという女性の運転手さんと話をする機会があった。僕は話しかけた。

「僕、これが初めてのイギリスなんですよ。なんだか皆良い人ばかりで、面食らっちゃいましたけど、本当に良い国ですね」
運転手さんが返す。「うーん、私は気質としてはアメリカの方が好きですけどね。何しろ、イギリス人っていうのは、本音と建前がありますからね。YES、YESなんて言うけれど、心の中ではNOと言っていることが多いんです。本当に親しくならないと、イギリス人は本音を話さないんですよ。まあ、丁寧と言えば丁寧な国民性なんですけれど」

この言葉を聞いて、僕は少し不安になった。まてよ……、昨日からやたらとイギリス人の反応が良いと思っていたが、まさかそれはイギリス人の気質に関係しているのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。さすがにそんなに分かりにくい(真逆の)反応もないだろう。

しかし、契約がまとまるまでは、確かなことは何も分からない。僕が最初にアメリカのに降り立ったときにそうだったように、新しい国に来るというのは、常に何も分からない状態からスタートすることなのだから。

取材を受けたメディアの欧州オフィス

取材を受けたメディアの欧州オフィス

その日の午後も、展示会で同じように水道会社の人たちと話しまくり、僕は午後になると、世界的に大きなメディアの取材を受けるべく、ロンドンの金融街に向かった。無事にインタビューを終え(ものすごく人工知能のことをよく分かっている記者の人だった。とても丁寧な良い人で、僕はますますイギリスが好きになった)、クマのぬいぐるみの映画で有名な「パディントン駅」から急行に乗ると、翌日水道会社のイノベーション担当役員と突っ込んだ議論をすべく、僕たちは2時間近くも離れたイギリスの片田舎に向かった。

電車での旅は、さながらテレビ番組の「世界の車窓から」のようだ。イギリスもロンドンから離れ、田舎に移ると、美しいけれど、一方で物悲しいような景色が続いていく。こうした景色は、アメリカよりも、むしろ日本に似ているなと思った。

やがて目的地の駅に到着すると、もうあたりは暗くなっていた。タクシーに乗ってホテルに移動する。そこで別ルートでイギリスに入った丸紅の畠中さん、さっきまで一緒に展示会にいた山室さんと合流すると、僕たちは夕食を共にし、昼間のタクシーの話、本音と建前の話で盛り上がった。

翌2月28日、ホテルからほど近くにある、ある水道会社の本社を訪ねた。興味深いことに、イギリスには水道会社が18社しかない。最近日本でも水道事業の民営化が話題になっているが、1989年に、イギリスの水道会社はすべて民営化されている。

ところが、民営化すれば万事全てが上手くいくわけではないようで、ファンドが株主になり、こうした水道会社の株式を売ったり買ったりするようになると、きちんと水道配管を更新するという健全な社会正義、また経済的なインセンティブが薄れてしまった結果として、イギリスの水道は配管の老朽化と、漏水の爆発的増大に悩まされてきた歴史がある。ここに規制当局が入り込み、民間ファンド(もしくは上場しているイギリスの民営水道会社に関しては、証券取引所で株式をトレードする一般株主)に対して、漏水を削減するよう要請しつつ、これを守れない場合には罰金を課し、また一方でこれを守れた会社には報奨金を与えるという、非常にユニークな建て付けになっている。

僕たちが訪問したこの水道会社も、以前は世界的に有名なエネルギー会社が株式を保有していたそうだが、時代が代わり、現在はまた別の国のインフラ企業が親会社になっているという。僕たちはここで、丸紅との共同プレゼンテーションを展開した。何しろ、この水道会社は、丸紅から紹介してもらったのだ。

会社の社長から挨拶が終わると、イノベーション担当の役員や、テクノロジー戦略担当の部長さん、課長さんなどが一同に会して、ディスカッションに入っていく。最初はちょっと遠巻きに僕たちを眺めていたイノベーション担当役員も、僕がとにかく技術的なことや、ソフトウェアの導入効果などについてやたらとまくし立てるのを聞いて、どんどん興味を持ってくれるようになってきた。場が温まり、質問が増え、それに対してまた僕が答えると、さらに議論が噛み合ってくる。最後には、では一緒に実証実験を進めましょうと口頭できちんと合意をして、このオフィスをあとにした。

近くの駅に向かうバスの中で、またパディントン駅に帰る急行の中で、僕は安堵の気持ちに包まれていた。きちんと準備をして、勇気があれば、また知的に誠実であれば、現実はいつも想像よりも温かい。この国でも、僕たちの製品を売り歩きたいと思った。(Fobes)

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