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シリコンバレーとは違う、フレンチ起業

サッカーワールドカップロシア大会で優勝したフランスが、「起業大国」という新たな称号を得つつある。2018年の米技術見本市「CES」にはフランス発のスタートアップ300社が出展。本腰を入れてからわずか5年で飛躍した要因を探る。

 パリの中心部からクルマで東に10分。「ガラス張りの巨大な体育館」と形容できそうな建物が姿を現した。総面積3万4000平方メートルとサッカーコート5面分以上ある世界最大規模のインキュベーション施設「STATIONF」である。スタートアップ企業、ベンチャーキャピタル(VC)、そしてオープンイノベーションを求める大企業を1つの「箱船」に集め、パリの地にミニ・シリコンバレーを作り出した。

取り壊す予定だった旧駅舎を改造し、スタートアップを支援するインキュベーション施設として再生させた
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STATION Fは、フランスの新興通信企業で財を成し、無償のプログラミング学校「42」の創始者としても知られるザヴィエ・ニエル氏が私財を投じ、旧駅舎を改造して建設。2017年6月に運用を始めた。

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発足後の1年間で入居したスタートアップ企業は延べ1034社。入居を希望した1万1271社のうち入居できた割合は9%という狭き門だ。フランスのほか米国、英国、中国などからも入居の応募があった。事業分野は多い順に法人向けSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)、AI(人工知能)関連、消費者向けアプリ、EC(電子商取引)、モビリティなどである。既に232社が資金調達に成功し、8社は大手企業に買収されてエグジットに成功した。例えば「42」出身者が創業しSTATIONFに入居するチャットボット開発のリキャストAIは、2018年1月に欧州SAPが買収した。

入居企業の技術者など約5000人がレジデント(入居者)として施設を使う。24時間営業でシャワー完備。オフィスや会議室、セミナースペースのほか、ハードウエア企業向けに工作室も備える。

フェイスブックやMSの幹部も訪問

「STATION Fの魅力は、施設などハードの充実ぶりにとどまらない。起業に関わるキープレイヤーが集まり、気軽に会えることに価値がある」と、STATION Fにサテライトオフィスを持つ工場IoT企業ティープトラックのフランソワ・コロドンCEO(最高経営責任者)は語る。

スタートアップ企業の潜在顧客となる大企業や個人投資家、VCが頻繁にSTATION Fに通う。米フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(最高執行責任者)や米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOも訪れた。

フェイスブック、韓国ネイバー、マイクロソフト、仏化粧品会社のロレアル、仏銀行大手のBNPパリバなどは、STATION Fでスタートアップ10社ほどを対象に半年間のインキュベーションプログラムを提供している。「いずれの企業も、優れたスタートアップを探そうと常時アンテナを立てている」(コロドン氏)。

何よりスタートアップ企業を惹きつけるのは「数千人の起業家に囲まれているという環境だ」と、STATION Fディレクターのロクサーヌ・バルザ氏は語る。同じ境遇の起業家同士が集まり、切磋琢磨しながら成長を狙う。

世界が注目する起業大国に

フランスのスタートアップは今や、「フレンチテック」という名称と共に世界の注目を集めている。

図 フランスで起業マインドが浸透した3つの要因
「安定志向」のフランスが5年で起業大国に
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2018年1月に米ラスベガスで開催された世界最大の技術見本市「CES」のスタートアップ専用スペースに出展した企業は、フランス勢が約300社で米国と僅差の2位となった。ちなみに日本は数社にとどまった。パリで2018年5月に開催されたスタートアップのイベント「VivaTech」には国内外の企業約6000社が参加。開催3年目にして世界最大級のスタートアップイベントに成長した。マイクロソフトのナデラCEOやIBMのバージニア・ロメッティCEO、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO、米ウーバーテクノロジーズのダラ・コスロシャヒCEOが登壇した。

現時点でフランスのスタートアップは、評価額10億ドル以上の未公開企業「ユニコーン」が相次ぎ生まれる米国、中国のような派手さはない。ユニコーンと言えるのは相乗り仲介サービスのブラブラカー(BlaBlaCar)やデータセンター運営のOVHなどにとどまる。

その一方、フランスのアート感覚に裏打ちされた独自色の強いスタートアップ企業が相次ぎ生まれている。STATION Fに入居するスタートアップ企業の4割が2017年創業の若い企業。ユニコーン予備軍がひしめく。

5年前の2013年ごろ、フランスと日本の起業環境は似ていた。若者は大企業を目指す安定志向が強く、スタートアップに優秀な人材が流れにくかったという。だが「この5年でフランスの若者の起業に対する考え方はガラリと変わった」と、パリを拠点とするスタートアップ企業の経営者は口を揃える。

交流の場が起点、VCを引き寄せ

わずか5年間で起業大国として頭角を現しつつあるフランス。理由の1つが政府による起業支援策だ。フランス政府は2013年11月にスタートアップ支援事業「フレンチテック」を展開。減税制度や民間アクセラレータへの資金拠出に加え、フレンチテックの統一ロゴを作ってフランス発スタートアップのブランド向上を支援した。

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図 スタートアップを支援する仕組みの比較
シリコンバレーとは異なる「コミュニティ」で起業支援
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当時、フレンチテック政策を強力に推進したのが、現大統領のエマニュエル・マクロン氏だった。STATION F居住者へのアンケートでは、回答者の86%がマクロン氏について「(起業大国としての)フランスのイメージを変えた」と肯定的に評価している。

同時期に大企業神話の崩壊が進んだことも見逃せない。2008年のリーマン・ショック以降、国内の大企業は若年者の雇用を手控えるようになった。国内最上位の超エリート向け教育機関であるエコール・ポリテクニークの卒業生など優秀な理系学生が、起業またはスタートアップへの就職を目指すようになった。

ただ、現地を取材すると最大の理由は別にあると気付く。草の根でスタートアップを支援するフランス独自の動きだ。起業家がノウハウを持ち寄り切磋琢磨することで、競争力の高いスタートアップ企業を量産している。

従来の「起業の聖地」と言えば米シリコンバレー。特徴は現地のエンジェル投資家やVCが起点となって起業家との資本関係を築き、優れたスタートアップを量産する場を形成したことだ。結果として1つの地域に投資家と起業家が高度に集積したエコシステムを形成した。スタンフォード大学はじめビジネスの経験が豊富な教授をそろえた大学が起業家のタマゴを産み、かつて地元で成功した投資家がそこに集まって孵化器の役割を果たした。

かつて世界中の都市がシリコンバレーを真似したエコシステムの構築に乗り出したが、中国・深センなどの一部を除き成功しなかった。起業家のタマゴを生み出す大学や、地域に根を降ろし活動する投資家の集まりは一朝一夕には構築できないからだ。

フランスがまず築いたのは投資家とスタートアップ企業というタテの資本関係ではなく、スタートアップ同士のヨコのつながりを起点とする「コミュニティ」だ。アイデアと技術を持つ起業家同士が活発に交流できる場を設けることに注力。そこにVCが引き寄せられた。起業家とカネの出し手であるVCが集う点はシリコンバレーと同じだが、起点はあくまで起業家同士が交流する場にある点が絶対的に異なる。

フランスのパリを拠点に生まれたいくつかの起業支援コミュニティは2種類に分類できる。1つの施設に複数のVCや大企業、スタートアップ企業を集積させた「施設型コミュニティ」。冒頭のSTATION Fがその代表格だ。

もう1つは共通するビジョンの下でパリを中心に世界の都市に点在するスタートアップ企業を束ね、バーチャルなコミュニティを形成する「都市横断型コミュニティ」だ。フレンチテックを生み出すうえで最も活発に活動しているのがこの都市横断型コミュニティである。各国の規制や販売チャネルの情報も融通し合い、世界の市場を目指す企業が集う。フランス発の世界コミュニティとして成長しつつある。(日経*Tech)

 

日本では未だに大企業が就職先のトップ上位を占めていますが、フランスも5年前までは同じ傾向だったという記事が印象的でした。海外の記事を見るにつけて日本がどんどん遅れをとっている気がしてなりません。

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